ドクターシーラボを気にする男性が増加?
私がマネジドケアを研究していると言ったら、そのお婆さんは突然のように声を大きくしてHMOを糾弾し始めた。
そして、彼女は周りでHMO反対グループを作っていると言った。
もっとも、彼女は肌艶が良くて六〇歳程に見えたが、実際の年齢が八〇歳近いと聞いて驚いた。
つまり、健康で裕福なご老人なのだが、先般、つまずいて骨折したときにメディケアの委託を受けたHMOが法外な治療費を請求したことに怒っていたのである。
あるいはまた、九八年にはH大学のキャンパス内のようなところの一軒家の二階を間借りしたが、そこの一階に住む高齢で未亡人の家主がガーデンパーティをした機会に近所の方々を招待し、私たち夫婦もお呼ばれした。
そのパーティの出席者にはやはり高齢の方が目立った。
お話しすると、元H大学の教授で退官したという人たちや元教師、元ジャーナリストなどといった職業に就いていた人たちが多かった。
その人たちと雑談していて、私がマネジドケアを研究していると言ったら、やはり、眉をひそめる人が何人もいた。
それほどにマネジドケア、そして、それと同義語のHMOは嫌われているようであった。
お粗末な医療費の『出し渋り』の事例は、文字どおり枚挙に逼がない。
しかし、既に説明してきたように、マネジドケアの関わる範囲は広く、そのため誰がどの立場で話しているかによって、見方がずいぶんと違ってくる。
医師や病院が患者との間で正しく「代理人とマネジドケアについて話してみると、HMOの不満はあまり聞かれず、むしろ、安い保険料で済んでいることに満足している様子である。
ただし、H大学に勤めている彼女らは、前の章でも紹介したH・ピルグリム・ヘルスケアというレベルの高いHMOを選ぶことができる上に、使える医療ネットワークはH大学医学部周辺に集まる著名な医療機関が含まれているため、不足がないのであろう。
その点を分からせるかのように、ある秘書は自分の母親が住むアラバマ州のHMOはあまり良くないと言った。
このささやかな経験でも見えてくるマネジドケア医療保険の問題は深刻である。
そこには、HMOに対する認識に世代間のギャップが窺えるし、また、暮らす場所によってはHMOの恩恵にずいぶんな違いが生じかねないというシステム上の不備も見え隠れするのである。
インターネットを使って全米で募ったグループがあることを知った。
彼らの情報収集は九六年七月に始まり、九八年二月までの二年あまりで二〇六編を集めていた。
それら記事のうち、いちばん古いのは九二年九月、いちばん新しいので九八年八月のもので、出典の多くはニューヨークタイムズやワシントンポストなどのポピュラーな新聞や雑誌からで、重複する事例は見受けられなかった。
このグループは、いわゆるHMOを糾弾する目的でこのキャンペーンを行っていたが、記事の要約を載せるだけで、分析はしていなかった。
記事報告には、この他にも高齢者医療保険の委託を受けたメディケア・マネジドケア保険や、福祉医療の委託を受けたメディケイド・マネジドケア保険が、弱者であるお年寄りや貧困者の受療を制限して起こした問題も多数報告されている。
このようなHMOの医療ネットワークに加わった医師たちが医療に不熱心となる問題や、医師自身の反省、相克の報告もある。
さらに、事態を座視できなくなった地元監督官庁の取り組みとして、さまざまな州の医療局や保険諮問委員会などの指導や懲罰科金の報告があり、また、HMOの問題に対するマスコミや消費者保護団体の活動報告もある。
これらの事態は、やがて、州や連邦の議会におけるマネジドケア規制法へとつながるが、九七年暮れのウォールストリートジャーナル紙によると、少なくとも四〇の州でHMOの問題に対処する法律を通過させており、連邦議会もマネジドケアの行き過ぎた医療保険給付管理、つまり医療費『出し渋り』を規制する追加法案を検討中だという。
その問題について、一つの具体例を挙げて説明しよう。
これは九八年秋にダラスで起こったマネジドケア医療保険に対する医師達の反乱で、以下はそれを報じたニューヨークタイムズ紙の記事の要約である。
「ダラスで四〇〇人以上の医師が自分たちがこれまでエトナ社のHMOであるエトナUSヘルスケア社と行っていた契約を破棄した。
そして、エトナ社は報復として、ダラスにいる自分たちの医療保険加入者たちに、HMOとの契約を破棄した医師のところでは一切のエトナの医療保険が効かないと通知した。
その結果、エトナ社に加入する約三万人の患者たちは、引き続きエトナ社との契約に残る医師にしかかかれなくなった。
そして、もしも、患者がエトナ社との契約から脱退した医師にかかりたいときには、医療費は自己負担する目に遭うことになり、患者が他の保険会社と契約し直すまでの少なくとも三、四カ月間の間は続くことになった。
これまで既に、医師が保険会社と契約するに当たって不利とならないように全米で多くの医師会が行動を起こしている。
そして、エトナ社は全米で一六〇〇万人のマネジドケアタイプを含む医療保険の加入者を持つ全米第四位の大保険会社であるが、こことダラスや他の都市の医師たちとの対立が始まっていた。
そのひとつの争いに、保険加入者の患者たちが巻き込まれた格好である。
オハイオでも医師たちはエトナ社のHMOから脱退した。
また、フロリダでは九七年夏に、州政府がエトナ社に対して医師との契約に不法な点が見られるので改善を求めたことで医師の契約破棄が回避されている。
原因は、エトナ社がこの三年の問、利益の落ち込みと投資家たちからのコスト管理のプレッシャーにあえいできたことにある。
このことは他のマネジドケア医療保険会社でも共通している事情かも知れないが、そのしわ寄せもあって、大手保険会社の中でもエトナ社が医師との交渉契約にいちばんうるさいかつたという。
じつのところ、業界関係者の間では、エトナ社はもともとは古いスタイルの穏やかな保険会社という評判であった。
しかし、従来の医療保険会社からマネジドケア医療保険会社に衣替えするために、わずかこの二年間に二つの大きなHMO、USヘルスケアとナィルケアを吸収合併した。
そのため、エトナ社の医療保険部門の社風が変わったといわれる。
うるさいといわれるエトナ社の交渉の中で、とくに問題となっているのは、医師と交わす契約書の条文や表現についてである。
たとえば、条文の中には、医師が契約した診療報酬が、後でエトナ社が変えることができるとあったり、あるいは、患者の治療方法についての決定にはエトナ社の審査が必要だとしながら、患者に対する責任は全て医師の側にあるとしていた。
そして、最も問題となった一節は、いわゆる医師たちがギャグルールと呼ぶもので、医師が患者に対してすべての治療法郷を説明することを押し止めるものである。
つまり、治療の種類は、患者でも医師でもなく、保険会社が決めるのであるHMO業界側は、GAOが認めたように、この条項はたいへん稀なものであるという。
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